DGCR8

DGCR8-mediated UV response pathway : microRNA生合成に関わるタンパクのDNA修復での役割

紫外線 (UV) には発ガン性があり、皮膚ガンの原因になります。細胞に紫外線を照射するとピリミジン・ダイマーなどのDNA損傷が生じます。このタイプのDNA損傷は変異の原因になりガン化を促進します。したがって、紫外線によっておきたDNA損傷の修復機構はガンを防ぐのに重要です。哺乳類の細胞ではヌクレオチド除去修復がこの役割をになっています。

microRNAは短いノンコーディングRNAであり、post-transcriptionalのレベルで遺伝子発現を負に制御します。DNA損傷応答やDNA修復を制御するmicroRNAも知られています。紫外線照射に応じて発現が変わるmicroRNAの報告もあります。またmicroRNA生合成に関わるタンパクをノックダウンすると細胞が紫外線高感受性になるという報告もあります。したがってmicroRNA生合成と細胞の紫外線応答には機能的な関連があると考えられます。ところが、microRNA生合成と細胞の紫外線応答がどのようなメカニズムでつながっているのかは最近までわかっていませんでした。

microRNA生合成に関しては、次のようなモデルが提唱されています。まずmicroRNAは長いprimary microRNAとして転写されます。primary microRNAは核の中でMicroprocessor complex (RNaseであるDroshaとRNA結合タンパクであるDGCR8から成る複合体)と呼ばれるタンパク複合体により切断され、precursor microRNAができます。次にprecursor microRNAは細胞質に出て、また別のRNaseであるDicerによってさらに切断され、成熟型のmicroRNAになります。

DGCR8-mediated UV response pathway

私たちはmicroRNA生合成に関わるRNA結合タンパクDGCR8が紫外線照射に反応してリン酸化をうけることに気がつきました。ヒトやマウスの細胞に紫外線を照射すると、DGCR8のSerine 153 (S153)のリン酸化が起きるのです。このリン酸化にはJNKsというリン酸化酵素が関与しています。S153のリン酸化は、細胞の紫外線抵抗性、紫外線によっておきたDNA損傷の除去、紫外線照射後のRNA合成の回復に重要です。一方、S153のリン酸化は、microRNA生合成には重要ではありません。また、DGCR8のRNA結合能やDrosha結合能は紫外線抵抗性には重要ではありません。このことから、DGCR8には「microRNA生合成」と「紫外線抵抗性」という二つの独立した機能があると考えられます。

紫外線抵抗性に関して、DGCR8はXPA、CSA、CSBという「転写と共役したヌクレオチド除去修復」に関わる因子とエピスタティックです。またDGCR8はCSB やRNA polymerase IIと免疫共沈降もできます。つまり、紫外線に反応しておきるDGCR8 S153のリン酸化は「転写と共役したヌクレオチド除去修復」による紫外線起因DNA損傷の修復を制御すること、そしてこの機能はmicroRNA生合成とは独立した機能であることがわかったのです。これらの知見から、microRNA生合成因子と紫外線起因DNA損傷修復を結ぶ新しいシグナル伝達経路の存在が示されました。これを“DGCR8-mediated UV-response pathway”と呼ぶことを私たちは提唱しています。

現在、私たちはDGCR8がどのようにして「転写と共役したヌクレオチド除去修復」を制御しているのか、S153のリン酸化を制御するリン酸化酵素、脱リン酸化酵素は何か、などを研究しています。