研究内容

ファンコニ貧血-BRCA経路(Fanconi anemia-BRCA pathway)

ファンコニ貧血Fanconi anemia(FA)は高発ガン性を特徴とするまれな遺伝性疾患です。FA の原因遺伝子は多数(22個)同定されていますが、その中には家族性乳ガン卵巣ガンの原因遺伝子BRCA1, BRCA2も含まれます。これらの遺伝子産物は共同して「FA-BRCA経路」(「FA経路」とも呼ばれます)を形成し、DNA修復を行います。FA-BRCA経路は特にDNA鎖間架橋の修復に関わっており、抗がん剤として広く使われているシスプラチンなどのDNA鎖間架橋剤から細胞を守ります。この経路に異常のあるガン細胞はシスプラチン、カルボプラチンなどのプラチナ製剤に対して高感受性を呈します。プラチナ製剤は卵巣ガン、精巣ガンやその他の固形腫瘍の治療に広く使われており、FA-BRCA経路に異常のある腫瘍には特に有効です。FA-BRCA経路の研究によって、ファンコニ貧血の病態の解明とファンコニ貧血の患者さんの診断・治療の改善、抗がん剤を使ったガンの治療戦略の改善に貢献できると考えています。

私たちは以下のような研究プロジェクトを行っています。

  1. FA-BRCA経路、DNA損傷応答、DNA修復経路に関わる新規因子の同定、
  2. これらの因子のDNA修復における機能の解明
  3. FA-BRCA経路の蛋白リン酸化、ユビキチン化による制御機構の解明

これら以外にも、FA-BRCA経路のガンの発症における役割の解明やFA-BRCA経路阻害剤の開発にも取り組みたいと思っています。→詳細

ガン化学療法における薬剤感受性と耐性

シスプラチンやカルボプラチンなどのDNA鎖間架橋剤は、卵巣ガンなどに対する抗がん剤として有効です。しかし、当初有効であった抗がん剤が、最終的には効かなくなってしまうことがよくあります。これを耐性獲得と呼んでいます。抗がん剤耐性獲得はガンの臨床上、大きな問題です。私たちは耐性獲得のメカニズムを解明し、それをガンの治療に役立てたいと思っています。

例えば、BRCA1/2に変異のある腫瘍がシスプラチン・カルボプラチン耐性(およびPARP阻害剤耐性)になるメカニズムとして「BRCA1/2の二次変異による機能回復」という現象が重要であることを私たちは発見しました。それ以外にも様々な薬剤耐性獲得のメカニズムがあるのは明らかであり、それらを今後は解明していきたいと考えています。→詳細

DGCR8-mediated UV response pathway

DGCR8-mediated UV response pathwayは、私たちが提唱している新しいDNA修復経路です。

紫外線はDNA損傷をひきおこすため発ガン性があり、皮膚ガンの原因にもなります。紫外線によるDNA損傷は「ヌクレオチド除去修復」というメカニズムで修復されます。

最近私たちは、細胞が紫外線照射を受けるとmicroRNA生合成に関わるRNA結合蛋白DGCR8がリン酸化されること、を見つけました。リン酸化されたDGCR8は「転写と共役したヌクレオチド除去修復」を制御することにより、紫外線によって損傷したDNAの修復に関わることもわかりました。このDGCR8-mediated UV response pathwayの研究によって、紫外線やある種の化学物質による発ガン機構の解明に貢献できると考えています。→詳細